面白かった。
正直リルゥ編に入るまでは、世界観説明とヒロイン達との淡い青春物語ばかりが続き、それほど感情移入出来なかった。
が、メインヒロインであるリルゥ編の中盤からはそんなほのぼのとしたストーリーが一転、沖縄という特殊な土地柄を舞台にした奇怪な伝承と、本作最大の謎である魔女という存在を巡り、広げられた風呂敷が一気に畳まれていき引き込まれた。
幼少期からずっと想像を絶する過酷な環境下を生き抜いてきたリルゥと、同じく鈍感になることでさまざまな理不尽を耐えてきた主人公の光。そんな、自分達が恵まれていたとは到底言えない苦しい世界で生きてきた二人が、互いの心の傷を理解し、自然と惹かれ合うさまはとても素敵だった。
だからこそ物語終盤、どうしたって社会的立場上は弱い子どもでしかない彼らを、事情も知らない大人達がずかずかと介入することで日常を引き裂いていく展開には心が痛んだ。狭い地域が舞台のせいで、知らない大人誰かにひとりでも邪険にされると、島での生活自体がすぐに詰む状況も苦しい。でも正直、この辺りの描写はのちの悲劇を演出するための、ライター側の大げさな前振りだったようにも思う。罪を犯しているわけでもないただの子供相手に、よってたかって大人がなぜそこまで?と極端なまま話を押し切る場面も多く、そこは腑に落ちなかった。
ただその点を差し引いても、終盤の盛り上がり方は凄い。リルゥが実は地球上ではなく、異世界からやって来た住人であること。そして異世界からやって来る女性達を邪神封印の贄とする、およそ現代的とは思えない島の恐ろしき風習。夏を舞台にしたこの作品のなかでも、どっと冷や汗をかく場面だった。
特に、ようやく想いが通じ合った光とリルゥの二人を引き離そうとする、あらゆる不条理な運命が本当にやるせない。
神の贄となった影響で日の光を浴びられず、それどころか、もはや数日と生きられないまでに衰弱するリルゥと、そんな彼女と最期の瞬間まで一緒にいると決めた主人公とを無理やりに裂くあらゆる手段には強い憤りを感じた。
なかでも印象的だったのは、リルゥを少しでも延命させるため御殿へ運ぼうとする女性医師に対し、主人公達最大の障害である地域のまとめ役の男性が、その方法を軽蔑すると吐き捨てたところ。
女性は主人公を説得するため理論を並べ、主人公自身にリルゥと離れることを選ばせるが、男性はその行為をどうせ選べる道なんて用意していないのに、まるで本人に自発的にその道を選択させたように思わせる、そのやり方は実に子供に対し卑劣だ、と告げる。この話のやり取りが私にはとても印象的で、自分はきっと子供にもっと寄り添える大人でいたいと思った。
そしていよいよ物語の核心に迫る終盤、実は主人公も異世界人の血を引く者だと発覚し、それと同時に祖父と島の風習を巡る長きに渡る因縁も明かされる。死の淵に立つリルゥを助けるため、その命全てを賭ける決意をした光と、立ちはだかる残酷な運命を乗り越えるため彼の祖父が託した、最後の鍵となる異世界のナイフ。そしてなにより、共に同じ夏を過ごした友人達の純粋な思い、その願いが結実する瞬間。
いつしかテキストを読み進める手は止まらなくなり、定められた運命に抗う彼らのために自分も泣いてしまった。リルゥを助けたい、その一心で封じられた邪神を解き放つことを厭わない光の想いに応えるように、全てのピースが一つに集約していく展開は熱かった。
ゲームクリア後タイトル画面に表示される光とリルゥが幸せそうでよかった。
それと同時に、そもそもなぜ島が異界の神に呪われてしまったのかも追加で明かされ、やはり人間はどこまでも愚かだと思った。人にそれほどまでの酷い仕打ちを受けた神が最終的に光を助けたのは、アカリの言う通り、やはり絆されたんだろうな。
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